グリースの増ちょう剤とその特徴
グリースは、様々な工場の製造設備から建設現場ではたらく重機に至るまで、様々な機械の潤滑に使用されています。ネットショップでグリースを検索するだけで様々なグリースが検索結果にあがりますが、多くの現場では各グリース製品の違いをもとに検討するというよりは「以前から使用しているから」「価格が安いから」「メーカーの推奨品だから」という理由でグリースを選んでいるのではないでしょうか。
しかし実のところ、グリースの種類による性質の違いをしっかりと理解したうえで、使用箇所に合ったグリースを選定することで、グリースの消費量や部品交換の頻度を削減することができます。この記事では、グリースが何からできているか、グリースの構成要素が変わることで、どのように性質が変わるのかということについて解説していきます。
グリースの構成要素
グリースと同様に潤滑目的で使用されるオイル製品に、ギヤオイルや作動油等の潤滑油があります。まず、グリースと潤滑油は何が違うのでしょうか?
グリースと潤滑油を使用されている方であれば、考えるまでもなく「マヨネーズやバターのような半固体状の潤滑剤がグリースで、サラダ油や蜂蜜のような液体状の潤滑剤が潤滑油である」ということが分かるかと思いますが、その違いはどこから生まれるのでしょうか。
その答えは「増ちょう剤」です。ギヤオイルや作動油などの潤滑油は、鉱油などのベースオイルに種々の添加剤を加えて性能を高めたものですが、それに増ちょう剤と呼ばれるものを加えると、半固体状のグリースが出来あがるのです。
すなわち、
- 潤滑油 = ベースオイル + 添加剤
- グリース = 増ちょう剤 + ベースオイル + 添加剤
という関係になります。
つまり、グリースをグリースたらしめているものは増ちょう剤であり、増ちょう剤の種類が変わると、グリース自体の性質も大きく変わることになります。
それでは、グリースの増ちょう剤にはどのような種類があり、それぞれどのような性質を持っているのでしょうか。
増ちょう剤は「石けん」?
グリースの増ちょう剤で最もポピュラーなのは、リチウム石けんです。リチウム石けんを増ちょう剤として利用したグリースを、一般的にリチウムグリースと呼んでいます。石けんというと、洗面所や浴室に置いてある固形石けんをイメージする方が多いかもしれませんが、広義的な分類でいえば増ちょう剤と固形石けんは同じ仲間だということになります。
少し意外かもしれませんが、石けんの広い意味での定義は「高級脂肪酸のアルカリ塩」であり、固形石けんもリチウムグリースの増ちょう剤も、その正体は「高級脂肪酸のアルカリ塩」なのです。
「高級脂肪酸のアルカリ塩」といってもイメージしにくいかと思いますので、具体例を使って説明していきます。手作り石けんを作ったことのある方であればご存知かと思いますが、石けんはサラダ油や牛脂などの油脂に、水酸化ナトリウムなどのアルカリを反応させることで作ることができます。ここで起きている反応は、「油脂の分子に含まれる高級脂肪酸とアルカリが結びつき、石けんが生成する」というものです(実際にはもう少し複雑なのですが、重要ではないため省略しています)。そして、その石けんの性質は「高級脂肪酸」と「アルカリ」の組み合わせによって大きく変化することになります。
例えば、
高級脂肪酸としてステアリン酸、アルカリとして水酸化ナトリウムを反応させた場合、ステアリン酸ナトリウムという石けんが生成することになります。ステアリン酸ナトリウムは、私たちが普段使用する固形石けんに使用される成分の一つです。
また、高級脂肪酸としてステアリン酸、アルカリとして水酸化カリウムを反応させた場合、ステアリン酸カリウムという石けんが生成することになります。そして、ステアリン酸ナトリウムは固形石けんの原料であったのに対し、こちらはハンドソープをはじめとする液体石鹼の原料となります。
上記の例だけでも、脂肪酸とアルカリの組み合わせ次第で、様々な性質を持った石けんが生成するということはお分かりいただけるのではないでしょうか。
それでは、リチウムグリースに使われるリチウム石けんの主成分は何かというと、ステアリン酸などの高級脂肪酸に水酸化リチウムを反応させたものになります。高級脂肪酸の種類は製品によって異なりますが、リチウムグリースと呼ばれている製品は、アルカリとして水酸化リチウムを利用したものであるという点が共通しています。
- リチウムグリースはなぜ多く使用されているのでしょうか?
また、リチウム石けん以外にはどのような増ちょう剤があり、その種類によってどのような違いが生じるのでしょうか?
石けん系増ちょう剤の種類と長所・短所
最も利用されているグリースであるリチウムグリースの長所は、何といっても安価である点です。ネットショップやホームセンターで販売されている最も安価なグリースは、十中八九このリチウムグリースです。
リチウムグリースの短所は、耐水性があまり高くない点です。外で使用する重機のピンからはみ出したリチウムグリースが、雨などにさらされて白く変色している様子を見たことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、地盤改良のための重機など、泥水にさらされる重機は、いくら給脂してもすぐにグリースが抜けてしまうという声もよく耳にします。これは、グリースが水と反応してしまうことで、グリース本来の性能が失われてしまい、潤滑箇所に留まることができなくなってしまうために起こります。
さらに、耐熱性があまり高くないという点も短所として挙げられます。あまり高温にならない箇所であればよいのですが、大抵のリチウムグリースは150℃にもなると垂れ落ちてしまい、潤滑箇所に留まることができなくなってしまいます。そのため、鉄鋼系の設備など高温にさらされる設備や、高荷重による摩擦熱が発生する重機などに使用すると、潤滑性能を維持しきれない可能性があります。
この弱点を解決するため、リチウム石けんに使われる高級脂肪酸の一部を別の種類の酸で置き換え、増ちょう剤としたものがリチウムコンプレックスグリースです。こちらはリチウムグリースよりも乳化が起こりにくいうえ、200℃以上でも垂れ落ちないなど、耐水性と耐熱性がともに大きく向上しています。
ところで、上記のリチウム石鹼グリースとリチウムコンプレックスグリースは、ともに増ちょう剤を生成する際のアルカリとして水酸化リチウムを使用していますが、それ以外のアルカリを使用した増ちょう剤もあります。
例えば、
- 使用するアルカリを、水酸化リチウムから水酸化カルシウムに置き換えれば、カルシウム石けんグリースやカルシウムコンプレックスグリースと呼ばれるものができます。
- 水酸化アルミニウムに置き換えれば、アルミニウム石鹼グリースやアルミニウムコンプレックスグリースと呼ばれるものができます
この中でもアルミニウムコンプレックスグリースグリースは、リチウムコンプレックスグリース同様に耐熱性や耐水性が高く、高温において固化しにくいため、高温や水にさらされる箇所においても広く使用できるグリースの一種です。
非石けん系グリース
また、脂肪酸とアルカリを組み合わせて作ったものではなく、全く異なる物質を増ちょう剤としたグリースもあります。その代表格が、ベントナイトグリースとウレアグリースです。
ベントナイトグリースは、増ちょう剤にベントナイトと呼ばれる粘土由来の成分を用いたものです。このグリースの最大の特徴は、「滴点がない」ことです。今までに紹介した耐熱性の高いグリースでも、石けん系のグリースは高温になると最終的には垂れ落ちてしまうのに対し、ベントナイトグリースは垂れ落ちることがありません。
これだけ聞くとかなり優れたグリースのように聞こえるかもしれませんが、ベントナイトグリースには高温で固化しやすいという弱点があります。そのため、滴点のないベントナイトグリースを使用したとしても、高温の設備ではトラブルに気を配らなければなりません。設備によってはむしろ、グリースが垂れ落ちてしまった方が、固化するよりもオーバーホールの手間は少ないかもしれません。
ウレアグリースは、ウレア基と呼ばれる部分を持つ有機化合物を増ちょう剤として利用したもので、高い耐熱性や耐水性を有しています。そのため、リチウムグリースでは耐熱性や耐水性が足りない箇所において、代替品として使用されることが多いグリースです。
ウレアグリースはアルミニウムコンプレックスグリースやリチウムコンプレックスグリース同様欠点の少ないグリースですが、強いて言えば、一般的に使われやすい石鹼系グリースと混合した時の相性が悪いという欠点があります。異種グリースの混合自体、そもそも避けるべきことなのですが、石けん系グリースとウレアグリースは特に混合時の相性が悪いと言われています。
そのため、グリースの性能低下を防がなければならない現場では、例えばグリースの使用箇所を間違えないように管理を徹底する、あるいはすべてのグリースをウレアグリースで統一してしまうといった、運用上の対策も必要となるかもしれません。
グリース選定のメリット
以上、グリースの増ちょう剤とその特徴について解説しました。専門的な話が多くなってしまいましたが、グリースの性質を理解することでどのようなメリットがあるのでしょうか?
グリースの性質を理解することのメリットは、コスト削減のための賢い選択ができるようになることです。現在グリースを使用している多くの現場では、価格的な魅力からリチウムグリースが選ばれていますが、それが必ずしもコスト削減につながらないということはご理解いただけるのではないでしょうか。
例えば、水のかかる重機に使用するグリースをリチウムグリースからアルミニウムコンプレックスグリースに変更したことで、グリースの使用量が約1/4に減少したという例があります。この例では、グリースの使用量が減少したことでグリース購入にかかる費用が削減されただけでなく、給脂の手間が減ったことにより、毎日のグリスアップに費やしていた時間を、別の生産的な作業に充てることができるようになりました。
また、別の例では圧延工場の生産ラインに使用するグリースを見直すことで、年間のグリース使用量を4,000kg以上削減することができました。グリースの大量消費は環境に大きな負担をかけるため、グリースの消費量を削減することは、コストだけでなく環境負荷の低減にも貢献します。
おわりに
以上、グリースは様々な種類があり、それぞれに長所と短所があること、グリースの性質を理解することで、コストや環境負荷の削減につながることをご理解いただけたかと思います。
NCHはお客様の潤滑管理パートナーとして、コストや環境負荷の削減に貢献できる様々なソリューションを提案します。


