潤滑管理に関わるオイルのパラメーターと、オイル分析をメンテナンスに取り入れることのメリット
産業の現場で稼働する様々な機械設備や重機には、ギヤオイル・作動油・エンジンオイルといった潤滑油が欠かせませんが、各潤滑箇所には、それぞれの負荷や回転数などの使用状況に合ったオイルのグレードがあります。そのため、機械のパフォーマンスを引き出すための第一歩は、機械の種類や稼働条件に合ったオイルを選択することです。
しかしながら、オイルは稼働とともに劣化していくため、初めは適正なオイルを入れたとしても、徐々に元々の性質を失っていくことになります。そのため、適切なタイミングでオイル交換を行うことが重要なのですが、それではどのようにしてオイル交換のタイミングを判断するべきなのでしょうか?
多くの現場では、運転時間や走行距離でオイル交換のタイミングを判断しているかと思いますが、実はオイル分析を行うことで、より適切なタイミングでオイル分析を行えるようになります。今回の記事では、前回に引き続き、「オイル分析にはどのような項目があり、それによって何が分かるのか」ということを、出来るだけ詳しく解説していきたいと思います。
オイル分析の項目とその有用性
オイルの分析は、オイルの健康診断のようなものです。我々が受ける健康診断に血圧、心電図、血液検査などの項目があるように、オイル分析にも様々な項目があります。また、健康診断を受ける医療機関が違っても、同じ項目であれば同じ手順で検査が行われるように、各項目にはJISやASTMによる厳密な手順の規定があります。日本からは、JISの規格番号をネット検索することで詳しい内容を閲覧することができるのですが、実際に見てみると測定器具の寸法や測定温度、データ記録のタイミングや操作の方法などが詳細に至るまで規定されていることが分かります。この規格に合わせたオイル分析を行うことで、オイルの状態を公平に判断することができるのです。
それでは、オイル分析の項目にはどのようなものがあり、それらの項目はどのような意味を持つのでしょうか?マニアックな内容にはなりますが、代表的な分析項目について紹介し、各項目について簡単に解説していきます。
粘度測定(JIS K2283およびASTM D7279)
粘度測定は、オイル分析で最もメジャーな項目です。40℃と100℃(もしくはその両方)におけるオイルの粘度を測定し、オイルの番手によって規定される粘度範囲から大きなズレがないかを確認します。もしオイルがせん断や酸化により大幅に劣化しているのであれば、多くの場合この項目で異常が検知されることになります。しかし、オイルの劣化には粘度が増大するものも減少するものもあるため、実際には劣化が大幅に進行していても、粘度には大きな変化が見られない場合もあります。そのため、オイルの劣化状態をしっかりと知るには、粘度測定だけでは不十分であると言えます。それでは、オイルの劣化状態を知るための方法には、他にどんなものがあるのでしょうか?
全酸価(JIS K2501およびASTM D664)
全酸価測定は、オイル中に含まれる酸の量を測定する手法です。全酸価の測定においては、水酸化カリウムというアルカリ性の試薬を用いてオイルを中和し、「オイル1グラムを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)」を求めます。潤滑油に含まれるベースオイルは、酸化とともに少量の有機酸を生じるので、酸化が進んでいるオイルほど全酸価の値が大きくなることになります。しかし、実際には添加剤もアルカリと反応することがあるうえ、ベースオイルが酸化した際に必ずしも酸が生成するわけではありません。そのため、オイルの酸化状態を大まかに知る方法としては便利ですが、全酸価の数値によってオイルの良し悪しが分かるようなものではなく、何度か測定を行って数値変化を辿ったり、新品のオイルとの比較を行ったりすることで、オイルの性状変化を察知できるようになるものといえます。
それでは、添加剤などの影響を排除し、オイルの酸化の様子のみを見る方法はあるのでしょうか。それが、次に紹介するFT-IR分析です。
FT-IR分析
FT-IR分析は、簡単に説明すると「潤滑油に赤外線を当て、潤滑油が赤外線を吸収する度合いから成分を推測する方法」です。潤滑油が酸化すると、ベースオイルの分子内に特定の構造が出来ます。この構造は、特定の波長の赤外線を吸収するので、新品のオイルと比較してその波長の吸収量が増えていれば、酸化が進んでいると考えられることになります。

このように説明すると、難しい現象を利用した分析方法のように見えますが、赤外線の吸収自体は身の回りの現象にも見られるものです。例えば、こたつが人体を温めるのにも、赤外線の吸収が利用されています。水の分子は赤外線を効率よく吸収し、吸収した赤外線のエネルギーは熱になります。そのため、こたつは赤外線を放出することで、人体に含まれる水の分子に赤外線を吸収させ、人体を温めることができるのです。こたつの下に敷いた布が人体ほど温まらないのは、水と比較して布は赤外線を吸収しにくく、熱に変換されるエネルギーが少ないからです。
このように水は赤外線をよく吸収するため、FT-IR分析を用いることで潤滑油中に混入した水分を検出することもできます(むしろFT-IR分析は、酸化の状態を検出する精度よりも、水分の検出精度の方が高いと言われています)。また、一部の添加剤の消費量なども計測することができるため、今までに紹介した方法と比較してかなり汎用性の高い分析方法であると言えるかもしれません。しかし、FT-IR分析は新品のオイルと使用済みのオイルで赤外線の吸収度合いを比較する必要があるため、新品のオイルが用意できないような状況では分析自体が出来ない、また、分析する対象によって精度が変わってしまうという弱点があります。それでは、潤滑油中に混入した水分の量を測る方法には、他にどのようなものがあるのでしょうか。その方法が、次に紹介する水分量測定の方法です。
水分量測定(JIS K2275-3およびASTM D6304-C)
水分量測定は、文字通りオイルに含まれる水分の量を測定するものです。もしオイルの乳化が進み、水分と油分がうまく分離されない状態となっているのであれば、この項目で検出されることになります。水分の混入自体、基本的には望ましくないことですが、オイルの種類によってその影響の大きさは異なり、特に作動油で水分が検出された場合は大きな問題とみなされます。
かなりマニアックな話になりますが、オイル中の水分量測定では、一般的にカールフィッシャー法と呼ばれる方法が用いられます。カールフィッシャー法は、電気分解によって発生したヨウ素という成分が、水と反応する性質を利用して水の量を求めています。すなわち、
- 溶液に電圧をかけて、ヨウ素を発生させる。
- ヨウ素と水の反応で、水が消費されていく。
- 水が消費され尽くして、ヨウ素が反応しなくなる。
- 上記に至るまでにかけた電気量から、水の量を計算する
という方法です。これにより、オイルが乳化してしまい、水との分離が難しくなった状態でも正確に水分量を測定できるのです。
水分量測定は、オイル中に混入した水分の量を知るための方法です。もちろん水は潤滑に大きな影響を与えかねない異物の一つではありますが、よりダイレクトに摩耗に関わってくるのは、固体の異物でしょう。それでは、固体の異物の量を測るための方法にはどのようなものがあるのでしょうか。それが、次に紹介する汚染度測定です。
汚染度測定
オイルに含まれる微細な粒子の数を数えます。これにより、ギヤの摩耗により生じた摩耗粉、外部から混入した砂や泥、熱により発生したカーボンなどの異物の総量を大まかに測定することができます。汚染度の測定はオイルの分析評価において広く用いられている方法で、大がかりな装置がなくても測定が可能なため、現場で利用可能な測定装置も販売されています。
汚染度の指標にはISO等級とNAS等級の2種類がありますが、NAS等級は現在ではあまり使われなくなった指標のため、ISO等級についてのみ解説していきます。ISO等級は「24/22/20」のようにスラッシュで区切られた3つの数字で表され、「オイル試料1mL中に、どのくらいの大きさの異物が、どれくらいの量混入しているか」ということを示します。そして、3つの数字は左から順に、試料1mL中に存在する「4㎛以上、6㎛以上、14㎛以上のサイズの異物の数」に対応しています。そして、数字と異物の数の対応は以下の画像のような対応関係になっています。

例えば、先述の「24/22/20」という数は、試料1mL中に4㎛以上の粒子が8万~16万個、6㎛以上の粒子が2万~4万個、14㎛以上の粒子が5千~1万個あることを示します。粒子数の変化は摩耗粉の発生や異物の混入と直結しているため、工場の潤滑管理においては、この汚染度を一定以下に保つことを目標としている例があります。また、定期的に汚染度を測定することで、潤滑状態に異常がないか調べることも可能です。
汚染度において4㎛, 6㎛, 14㎛というサイズが基準になるのは、そういったサイズの粒子が摩耗や詰まりの問題を引き起こしやすいからです。この中でも6㎛のサイズの粒子が特に摩耗に繋がりすいと考えられているのですが、6㎛とはどのくらいのサイズかイメージできるでしょうか?
身近な例で比較をすると、日本人の平均的な髪の太さが70㎛と言われています。そのため、摩耗の原因となりやすい粒子は、髪の毛の1/10よりも細かい、目に見えないサイズの粒子だということになります。もちろん汚染度が極端に高くなればオイルの見た目にも差が出てきますが、汚染度に関わる粒子の小ささを考慮すると、汚染度を見た目で正確に判断するのは難しいと言えます。そのため、オイルの見た目が透明で綺麗だからといって交換を怠ると、実際には交換が必要なほどにオイルが汚染されていたということもありうるのです。
さて、汚染度の測定は摩耗の状態、異物混入などの要素を知るうえでかなり合理的な手法だと言えますが、粒子の数だけに着目した手法であるため、混入している汚染物質の正体が何なのか知ることはできません。それを知るための方法が、次にご紹介する元素分析です。

元素分析(ASTM D5185)
元素分析は、文字通り潤滑油中に含まれる元素の種類と量を分析するもので、検出された汚染物質の正体を探る手掛かりを与えてくれます。
例えば、元素分析の結果Fe(鉄)が多く検出された場合は、鉄製のギヤの摩耗によりオイル中に鉄が増えているのではないかという予想が立ちますし、Si(ケイ素)が多く検出された場合は、砂や泥などが混入したのではないかという予想が立ちます。また、汚染粒子としては検出されない冷媒などが混入した場合も、Na(ナトリウム)などの元素として検出されることがあります。
まとめ
今回は、一般的なオイル分析の項目をできるだけ詳しく解説しました。いずれの分析項目も一長一短であり、また一回の分析だけでは分からないことも多いため、各分析を組み合わせ、結果の継時変化を追うことが重要になります。
潤滑管理を担当されている方も、オイル分析までは中々手が回らないというケースが多いと思いますが、まずは負荷の大きな設備だけでも、オイル分析を行ってみてはいかがでしょうか。オイル分析を行うことで、設備の状態を正しく知り、設備の寿命延長やオイル交換間隔の適正化ができるもしれません。


