溶剤系洗浄剤と水溶性洗浄剤
自動車工場や食品工場など、ありとあらゆる製造現場から、レストラン・ホテルなどのサービス業の現場に至るまで、様々な現場において洗浄剤が使用されています。洗浄剤は大きく分けて溶剤系洗浄剤と水溶性洗浄剤がありますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。この記事では、二種類の洗浄剤の働き方の違いや、それぞれのメリットとデメリットを説明していきます。
溶剤系洗浄剤
溶剤系洗浄剤は、その名の通り溶剤を主成分とした洗浄剤です。溶剤系洗浄剤の性質は、使用される溶剤の成分によって変わります。例えば、手軽に使えるために幅広く使用されるパーツクリーナーのエアゾールには、溶剤成分としてエタノールなどのアルコール類や、ヘキサンなどの石油類が含まれています。これらの成分は、グリースやオイルなどの水では落としにくい汚れを、どのような働きで落としているのでしょうか?
少し専門的な話になりますが、液体には極性とよばれる性質があります。これは、液体を構成する分子がどのような構造になっているかによって変わります。分子を構成する原子は炭素、水素、酸素など様々なものがありますが、原子の種類によって電子を引き付ける強さが違うため、分子の構造によって、電子が分子全体に満遍なく分布しているものと、一部に偏って分布しているものに分かれます。このうち、電子の分布に偏りがないものを「極性がない」と表現し、偏りがあるものを「極性がある」と表現します。
そして、極性のない分子は油とよく混ざる性質(親油性)をもち、極性のある分子は水とよく混ざる性質(親水性)を持ちます。溶剤系洗浄剤に含まれるヘキサンは極性を持たない、親油性の分子であるため、油汚れを溶かして落とすことができます。
ちなみに、同じく溶剤系洗浄剤に含まれるアルコール類は少し性質が異なり、分子内に疎水性の部分と親水性の部分を併せ持った構造をしています。そのため、水と油の両方と混ざりやすい性質をもちます。アルコールが水と混ざりやすいのは、お酒を飲むときに水とアルコールが分離していないことからもお分かりいただけるかと思います。
溶剤系洗浄剤のメリットとデメリット
溶剤系洗浄剤には、様々なメリットとデメリットがあります。溶剤系洗浄剤の一般的なメリットをまとめると以下の通りです:
- 汚れを手早く落とせる
- 乾燥の手間が少ない
- 錆を引き起こしにくい
- 電子機器にも使用できるものもある
まず、溶剤系洗浄剤は水溶性洗浄剤と比較して手早く汚れを落とせます。そのため、ちょっとした油汚れを落とす作業が頻繁に生じるような現場では、大容量のパーツクリーナーの缶と大量のウエスを常備しているような光景がしばしば見受けられます。
また、成分によって多少差はあるものの使用後はすぐに表面から揮発するため、入念にふき取る必要がないというのも大きなメリットです。水溶性洗浄剤の場合は基本的にふき取りが必要で、成分によっては錆の原因となることもありますが、溶剤系洗浄剤ではそういった心配がありません。
さらに、水溶性洗浄剤が使用できない電子機器の洗浄に使用できることも、溶剤系洗浄剤ならではのメリットといえます。成分によっては基盤に影響を与えるので慎重に選ぶ必要があるものの、オイルミストなどで汚れた電子機器をきれいにしたい場合は、溶剤系洗浄剤の出番です。
一方、溶剤系洗浄剤のデメリットは以下の通りです:
- 多くの場合引火性を有する
- 保管量に制限がかかる可能性がある
- 従業員への健康影響が懸念される
まず、溶剤系洗浄剤は有機物であるため、多くの場合引火性を有します。そのため、特に引火性の高い成分については、消防法により一箇所への保管数量が制限される場合があります。
また、高い揮発性が作業時間の短縮に貢献する反面、作業者が揮発した溶剤に暴露されるリスクは高くなります。さらに、一部の溶剤系洗浄剤は発がん性が指摘されているものもあるため、従業員の健康維持の観点から使用を控える事業者も増えています。
水溶性洗浄剤
水溶性洗浄剤とは、その名の通り水に溶解する成分でつくられた洗浄剤です。これまでに説明した通り、グリースやオイルなどの油汚れは、そのままの状態では水に溶けないため、溶剤系洗浄剤とは別の仕組みで汚れを落としていることになります。それでは、水溶性洗浄剤はどのような仕組みで汚れを落としているのでしょうか?
界面活性剤のはたらき
水溶性洗浄剤には通常、界面活性剤と呼ばれる成分が入っています。聞きなじみがない方も多いかもしれませんが、石鹸、ボディーソープ、洗剤などの主成分も界面活性剤です。界面活性剤は、下のように親水性の高い部分と親油性の高い部分が合わさったような構造をしています。

そして、洗浄剤中の界面活性剤は以下のようにして油汚れを落としていきます:
1️⃣ 界面活性剤の疎水基は、水中では居心地が悪いため、油汚れのところに集まっていきます。

2️⃣ 界面活性剤が取り囲んだ油を浮かせていきます。さらに油の周りを界面活性剤が取り囲みます。

3️⃣油が完全に界面活性剤に取り囲まれて、球体のような状態(ミセル)となって水中に分散します。

ちなみに、上記の働きは水温によって大きく影響を受けます。例えば、温度が低く油脂が固化してしまうようなときは、界面活性剤が油汚れをうまく水中に分散させることができず、汚れが落ちにくくなります。例えば、家庭でカレーを作った後の鍋を洗うのに冷水と洗剤だけではなかなか汚れが落とせず、お湯を使うことで落とせるようになることがありますが、これも低温ではカレーに含まれる油脂分が固化してしまうことが原因となります。
また、温度が高すぎても界面活性剤の働きに悪影響が出てしまいます。これは、界面活性剤の種類によっては温度が高すぎるとうまく水に溶解できなくなることや、高温のもとでは界面活性剤の運動が激しくなり、ミセルが形成されにくくなってしまうことが原因であるとされています。
そのため、水溶性洗浄剤を効率的に使用するためには、洗浄剤や汚れの性質に合った温度で使用することが重要といえます。
水溶性洗浄剤のメリットとデメリット
水溶性洗浄剤にも、様々なメリットとデメリットがあります。一般的な水溶性洗浄剤のメリットは以下の通りです:
- 引火性がない
- 水で薄めて使用することができる
- 従業員の薬品への暴露リスクが比較的少ない
水溶性洗浄剤は、水を溶媒とした洗浄剤ですので、引火性が問題になることはありません。そのため、火気のある現場でも使用でき、消防法によって保管量が制限されることもありません。
また、基本的に濃度が高い方が洗浄力は高くなりますが、濃度が低くても十分な箇所においては、水で薄めて使用できるという点もメリットの一つです。高性能で価格の高い水溶性洗浄剤であっても、用途によって適切に水で薄めて使用すれば、コストの削減に大きく貢献することができます。
更に、溶剤系洗浄剤とは異なり揮発性をもたないため、従業員が洗浄剤に暴露される量を減らすことができるのもメリットの一つです。近年は従業員への健康影響に関するリスクアセスメントが義務付けられたこともあり、より暴露量をコントロールしやすい水溶性洗浄剤のメリットは非常に大きいものとなっています。
一方、水溶性洗浄剤のデメリットは以下の通りです:
- 溶剤系と比較して、汚れを落とすのに時間がかかりやすい
- 乾燥やすすぎの手間が生じる
- 錆の原因となることがある
今まで見てきた通り、溶剤系洗浄剤と水溶性洗浄剤では汚れを落とす仕組みが異なるため、水溶性洗浄剤は汚れを落とすのに時間がかかりやすい傾向があります。また、水溶性洗浄剤は水に洗浄成分を溶かしたものであるため、洗浄後はすすぎや拭き取りによってその成分を除去する必要があります。また、鉄などの金属表面に残った水分は錆の原因となるため、付着した水分を乾燥によって除去する必要が生じます。
いずれのデメリットも、何らかの対策により対応可能なものではありますが、新たな設備や工程が必要となるため、溶剤系洗浄剤を水溶性洗浄剤で置き換えようとすると、洗浄プロセスにかかる時間が増加してしまうことがよくあります。
まとめ
以上、溶剤系洗浄剤と水溶性洗浄剤について、それぞれの違いを述べてきました。洗浄剤を選ぶ際は、それぞれのメリットとデメリットを理解したうえで、実用性・安全性などの観点からベストな選択肢を探ることが重要になります。
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