工場における錆の問題

鉄は安価で加工がしやすい金属のため、工場の建屋、重機、生産設備など、ありとあらゆる物に使用されています。しかし、工場のメンテナンスに関わるお客様であれば、鉄には常に錆の問題が付きまとうことをよくご存知かと思います。この記事では、錆はなぜ発生するのか?錆はどのような問題をもたらすのか?錆が発生した場合はどうしたらよいのか?ということをお話しします。

錆はなぜ発生するのか?

錆は、湿った空気中に鉄を放置した際に発生します。このこと自体はご存知の方も多いかと思いますが、実際にどのような化学反応が起きているのかまでは、あまり知られていないのではないでしょうか。鉄が錆びるまでの間の様子をミクロの目で見てみると、実は多くの段階を踏んでいることが分かります。

  1. 鉄原子【Fe】が、電子【e】を水中に放出して、鉄(II)イオン【Fe2+】になる
  2. 水中の酸素分子【O2】と水分子【H2O】が電子【e】を受け取って、水酸化物イオン【OH】を生成する
  3. 鉄(II)イオン【Fe2+】と水酸化物イオン【OH】が反応して、水酸化鉄(II)【Fe(OH)2】を生成する
  4. 水酸化鉄(II)【Fe(OH)2】が水中の酸素分子【O2】と水分子【H2O】と反応して、水酸化鉄(III)【Fe(OH)3】を生成する
  5. 水酸化鉄(III)【Fe(OH)3】が部分的な脱水反応により、酸化鉄(III)【Fe2O3】を生成する

5で生じた酸化鉄(III)が赤錆と呼ばれるもので、工場における悩みの種となります。上記のプロセスで大切なことは、水中において酸素と鉄が電子のやり取りを行った結果、赤錆が生成するということです。つまり、鉄表面に油や塗料などの膜を作り、鉄と水や酸素との接触を断つことができれば、1~2の反応が進行するのをストップし、錆の発生を抑えることができるということになります。

錆はどのような問題をもたらすのか?

鉄はしなやかで丈夫な金属ですが、上記のプロセスにより生じた酸化鉄(III)は脆い物質です。したがって、錆びてしまった鉄は設備や人を支えるのに十分な強度を維持することが難しくなります。そのため、例えば足場の錆を放置すると足場を踏み抜いてしまったり崩落につながったりと、重大な事故の原因となる可能性があります。また、錆びていない状態の鉄の表面はなめらかですが、酸化鉄(III)の表面は粗いため、空気中の水や酸素を多く吸着します。その結果、上記の反応が促進され、加速度的に錆の発生が進行することになりますこのことは「錆が錆を呼ぶ」現象として知られています。

錆が発生した場合はどうしたらよいのか?

それでは、錆が発生した場合はどうしたらよいのでしょうか。まずは何といっても、発生した酸化鉄(III)を取り除くことが重要です。その際は、ワイヤーブラシなどを用いて物理的に除去しても良いですし、錆が酸に溶解しやすい性質を利用して、酸性の洗浄剤を使用するのも良いでしょう。

しかし実は、錆を取り除いた後が非常に重要です。錆を取り除いた後は金属の地肌が露出した状態となっているため、非常に錆びやすい状態になっています。特に、多くの酸性洗浄剤は錆の発生を促進するため、しっかりと中和を行わないと錆をより広げるような結果になりかねません。そのため、錆を除去した後は塗料や防錆油などにより、新たな錆の発生を抑制する必要があります。

また、上記のように発生した錆を取り除くという方法だけでなく、全く別のアプローチによる錆対策の方法もあります。それは、赤錆とは異なる種類の錆である黒錆を利用するという方法です。

赤錆と黒錆

赤錆は酸化鉄(III)【Fe2O3】と呼ばれる物質であるであるのに対し、黒錆は四酸化三鉄【Fe3O4】と呼ばれる物質で、名前の通り黒色の物質です。黒錆は赤錆と異なり、緻密で密着性のよい皮膜を形成するため、金属内部を守る働きがあります。この性質を利用した日本の伝統工芸品が、南部鉄瓶です。

南部鉄瓶の製造工程には、約900℃の炭火により鉄瓶を焼く「金気止め」という工程があります。ここでは、鉄原子【Fe】が水【H2O】と反応し、四酸化三鉄【Fe3O4】と水素【H2】が発生するという反応が起こります。それにより、元々は金属らしい銀色の光沢をもっていた南部鉄瓶が、見覚えのある黒色の姿に変貌します。南部鉄瓶は鉄製品でありながら、手入れをしっかりと行うことで一生使い続けられる製品ですが、それには黒錆が緻密な被膜を形成して内部を保護していることが関係しているのです。

そのため工場などにおいても、鉄表面にうまく黒錆の被膜を形成させることができればよいのですが、通常の状況下で安定して黒錆を発生させるのは難しいです。それでは、黒錆の被膜の効果を実用的に活かすにはどうしたらよいのでしょうか。

錆変換による防錆

現実的な方法としては、錆変換という方法が挙げられます。これは、工場などに発生した酷い赤錆を、特殊な薬剤によって黒錆に変換することで、錆の進行を抑制するというものです。

この方法の長所は、錆を除去する必要がないという点です。錆の発生範囲が広い場合ワイヤーブラシによる錆の除去には多くの労力がかかりますし、酸を利用する場合は労働安全上のリスクや他の金属部品に悪影響を与える可能性が高まります。そういったコストやリスクを抑えられるという点は、錆変換特有のメリットといえます。また、酸による除錆とは異なり中和の必要がなく、赤錆によって形成された凹凸の多い表面を残すことができるため塗装が乗りやすくなるという点もメリットとして挙げられます。

それに対し錆変換の短所は、錆の範囲が狭い場合は使用できない点です。錆変換は赤錆を黒錆に変換するというアプローチのため、赤錆がスポット的にしか発生していないような箇所ではあまり効率的でなく、どちらかといえば広範囲に錆が発生しているときに真価を発揮する方法です。また、化学反応を利用するため、温度があまりに低い場合にはうまく錆の変換ができないという欠点もあります。

効果的な錆対策

以上の通り、錆対策は現場の状況に合わせて多くの選択肢から適切な方法を選択することが重要です。NCHでは、錆の再発を抑えながら錆の除去ができる酸性洗浄剤や、引火性のない水性の錆変換剤、速乾性で美観に優れた防錆皮膜を形成するエアゾールなど、優れた錆対策の製品を取りそろえております。NCHは、専門的な知識と高性能な製品ラインナップを生かして、お客様に合わせた効果的な錆対策をご提案します。

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